コラム「先代の治療論」

何事にも気を集中させるのがモットー

お坊さんが合掌するように、 わたしたちも仕事を始める前には、いっせいに呼吸を整えます。 肉体を動かす原動力は「気」というエネルギーの集中以外の何物でもないのです。 この気が集中すると、できそうになかった ことでも不思議とスラスラとできてしまうのです。

あるとき、 当院の塾生のひとりが、仕事に熱が入らずにいるのが見受けられました。 どうも気が乗らないというのか、余計なことを考えたり、気が散ったりしているようです。
しかし、本人は気を集中しようと努力すればするほど、 手足が動かなくなってしまうのですから始末が悪いのです。

この現象は、一種のスランプで、生理学的にもなかなか解明されない人間構造の難しい点なのです。

これは、志を高く持つ人間であれば、必ず誰もが通る関門です。 ここをうまく切り抜けると、 また不思議と人が変わったような仕事ぶりが発揮されるのです。

このようなスランプは、学校や家庭内でも誰にでも起こることです。
たとえば子どもが勉強に集中できないようなら、無理させず、興味のあるものから学ばせてやるのがいいのです。

さて、その誕生においては、少し厳しい対応をしました。「受付の仕事のかたわら、みんなの仕事ぶりをよく見ておくように」

と本人にいいおきました。 そして、  「もう一度、彼を再教育するように!」

と大きな声で先輩に指示したのです。 みんなの前でそういわれた彼の悔しい思いがエネルギーとなり、明日の 仕事につながるように願ったのです。

その結果、その塾生は今、いきいきと仕事をしています。その仕事ぶりは、すばらしいのひとことにつきます。 そこで新たに話しました。

本当に大きな落とし穴というものは3~5回は必ずやってくること。これは生きているからこそ起きること。 スランプを乗り越えるために何か楽しい空想をすること。

集中を持続させるには己の修練がどうしても必要なこと。

そして、この仕事は他人と競争するものではないということも…..。
このことは現時点では本当に理解できなくても、やっていくうちに体で覚えていくものです。

そうして身についたことは一生の宝となります。 誰もが持っている人間の不思議な力のひとつなのです。