コラム「先代の治療論」

肩の観察でわかる体の症状

畳の上やフロアーにおいて患者の体の状態を診るときには、 相手が正座をするまでの間がチャンスと考えています。 まずは相手の全体的な体の輪郭から観察して、現在の状態を感じることができます。そのときに、とくにどの部位に着眼点をおいて観察したらよいのでしょうか。

ひとつに肩の「表情」を診る方法があります。 肩で風を切る、肩をいからせる、肩をすぼめる、など肩に関して人間の心理状態を表現した慣用句がたくさんあります。顔に負けず、肩も無意識に体の状態を表現している部分で、とくに精神状態とは深いかかわりがあるようです。元気があるときには体に弾力があるので肩幅が広がり姿勢もよくなります。

反対に、重荷を背負わされているために心痛から解放されず、前かがみになっている人もいます。そのような人の肩幅は狭く、すぼめるような形 になっています。

また、悲観的になっている人の場合だと、肩はうなだれ、何をやってもおぼつかず、ためらいがちな動作になってしまいます。

このように、肩は体の内側の状態を如実に表現しています。顔を見ると目をまじまじと見てしまうものですが、 肩はさりげなく相手を観察するのに絶好の部位です。

「肩幅が狭く見えるけど疲れているのかな」「肩がピンと張っていて元気 そうだな」などというくらいのことだけでけっこうです。 そうした肩の観察から、相手に対する思いやりも生まれ、ふさわしい言葉をかけてあげることも可能となります。

さりげないことでも、本人にとっては生活が一変してしまうほどのうれしい改善につながるかもしれません。 これは人づきあいのテクニックとし ても大いに応用できそうです。

さて、肩の筋肉の硬直をゆるめる調整部位として、「肩中兪」「臑兪」と というツボがあります。じつは、これらのツボは肩だけにとどまらない重要なツボなのです。 脳卒中や心臓病などで急に倒れてしまう人がいますが、これはこの部位の筋肉の過硬直が原因していることが多いようです。

過硬直しているのに、 本人自身がその異常感に気がつかず、 ある日突然、目の前が暗くなり倒れてしまい、最悪の場合は命を落としたり、一命は取りとめたとしても半身麻痺として不自由な生活を余儀なくされてしまう人 もいるのです。 疲労や無理が重なり、 脳卒中や心臓病にいたるサインとし て、肩が硬直してくるのですが、これはそれ以上の無理をさせないために自然が仕組んだ働きなのです。 過硬直した部位の歪んだ筋肉をゆるめ、 正 常な働きに戻すためには、寝込むのも自然の姿なのです。

こう考えてみると、病気もじつは必要があってかかった、といった場合があることに気づきます。 この発想で生活をとらえなおしてみると、 健康の維持や病気の早期発見、 疲労回復も簡単になるかもしれません。

予防手段として、 ミラクル体操 (健笑苑オリジナルの体操)をすべきだと思いますし、ぐっすり寝て、体の疲労を取り除いて回復させることが必要になります。

さて、話を戻しましょう。相手に正座をしてもらい、肩の観察がすんだら、うつぶせになってもらいます。 お互いの呼吸に乱れがありますと、いくら治療点となる部位に手がいったとしても、相手は喜びませんし、ありがたいとも思いません。 呼吸が合わないということは、 気が感応していないからで、こんな状態では効果も期待できません。

医学について何も知らなくても、相手との呼吸を合わせることができる方であれば、その方に手を当ててもらうだけでありがたく感じ、素直になれるのです。

息を合わせるには、目を閉じてゆっくりと息を吸い「ウーム」とへそ下にある気海というツボに送り込むのです。 みなさんもご存じの臍下丹田(せいかたんでん)に 息を3~5回送り込めばよいのです。

相手を観る力を養うことが、人間関係をじょうずにまとめていくこともできますし、たとえ、いざこざやケンカになっても、この力があれば最小限に食い止めることも可能であると知っておいてほしいと思います。