コラム「先代の治療論」

発熱時こそ体力づくりのチャンス

自然の恵み―これは、ふつうに暮らしていては特別気にとめないことかもしれません。あるいは、太陽や農産物などの人間に豊穣をもたらす方面のことを意識しているかもしれません。 でも、自然がわたしたちに与えてくれる恵みのひとつとして、 あのつらい「発熱」も含まれるのです。

熱が平熱を超えるとだるくなり、食欲も落ちてしまう。それがなぜ恵みなのでしょう?
体に異常が生ずれば、それを回復させるための作用として熱が出ます。発熱は異常に対する抵抗の副産物で正常な働き。 体を守り、より強くしてくれるのです。

しかし、わたしたちはこの変化を否定的にとらえていて、熱が出たら下げなくてはと、やっきになってしまいます。確かに熱が出たときに、冷やせば気持ちがよく、解熱剤を飲むと楽にはなります。

しかし、それは一時的なもの。冷やして熱が下がったとしても、その後に回復するときの調子は、たいしてよくないはずです。何となく体が重くてだるい、サッパリしない、何をするにもおっくう・・・・。 熱が出たときに冷やすと、冷やされたところに熱が集まって平均化され、全体で熱が下がるというだけのことです。

ところが「逆も真なり」、熱に熱を加えるとどうでしょう。熱は分散する性質があって、それを活用するわけですが、熱を加えても熱は下がるのです。しかもそうやって下げた場合、回復したときはとても体が楽になって、その違いは歴然としています。「熱が出たら温める」ことによって爽快となり、身も心も軽々とした感じになるから不思議です。

一見、意外に思われる行為ですが、夏の暑い時期にあえてタオルをお湯に浸して顔を拭いてみると、さっぱりとした感じを覚えるでしょう。逆にタオルを水に浸して拭いてみますと、いっときは気持ちが良く感じますが、冷えたところが温まろうとして、かえって後からポカポカする感じがします。 この感じ方の違いがよくわかれば、風邪をひいたときに熱を下げるにはどちらの方法を用いたらよいか理解しやすいと思います。

自然が引き起こす働きには、絶妙な「間」に司られています。太陽が東から昇り西に沈むというように、時間の経過が必要なのです。急激な治療ではカバーしきれないことがあるのです。

さて、熱が出たときには、こうしましょう。まず洗面器に45℃~47°℃くらいのお湯を用意してタオルを洗面器に浸し、固くしぼります。これを四つに折って「強間 (後頭部を手で触っていくと外後頭隆起という隆起している場所があり、そこから3cmくらいの中央部)」のツボに当てます。
タオルが冷めたらまた温める、をくりかえします。これを20~30分続けます。そのあと後頭部の湿気をよく拭き取り、経過をみます。

たいていの場合、体温はいったん上がりますが、少し経つと今度は体温が下がってきます。この間に汗が出るようであれば、回復が早い兆候です。ただし、汗をきちんと拭き取ることを忘れず、あとは安静にしていてください。
ここで注意しなければならないことは、熱が下がったときこそ要注意とし、安静を必要とします。 熱が高いときにはまだ体に力があるわけですから、さほどの心配はないのですが、熱が下がるということは、機能も低下することになるのです。ここで無理をすると、また熱がぶり返したり、ほかの症状を併発するおそれも出てくるのです。

この熱の治療の仕方は、体の健康を回復させるばかりでなく、以前にもまして体力が身につくのです。「転んでもタダでは起きない」、とても大切な方法なのです。